「<日雇い派遣>専門業務をのぞき原則禁止…与党改正案」(7月8日・毎日新聞)によると、いよいよ政府は人材派遣の規制強化に乗り出すようである。
自民、公明両党の「新雇用対策に関するプロジェクトチーム(PT)」(座長・川崎二郎元厚生労働相)は8日、労働者派遣法改正案の基本方針をまとめ、舛添要一厚労相に提出した。日雇い派遣を、通訳などの専門業務をのぞいて原則禁止することなどが柱。厚労省は秋の臨時国会への改正法案提出を目指す。政府は同法制定の85年以降、規制緩和の流れに沿って段階的に派遣可能業務を拡大してきたが、働いても生活に困窮する「ワーキングプア」の増大を招いたことで、規制強化に転じる。
現在は警備など一部の業務を除き、派遣対象業務は原則自由化されている。しかし、政府・与党は「規制緩和が行き過ぎた」とみて方針転換に乗り出した。原則自由化前の96年段階でも派遣可能だった、通訳など26業務を軸に例外を認める「ポジティブリスト」を設け、それ以外は日雇い派遣を禁止する。グループ企業内で派遣することで、従業員の処遇切り下げにつながりやすい「専ら派遣」の規制も強化する。
与党は提言に、▽労働災害の防止責任を派遣先の会社にも負わせる▽偽装請負などを繰り返す場合の行政措置の強化▽マージン(手数料)率公開を法律で義務化--も盛り込んだ。【堀井恵里子】
そもそも人材派遣とはなんなのだろう? ぼくはこのあたりのことがまったくわからないので困ってしまうのである。企業が派遣業者に「人を寄こせ」というのはすべて派遣だと思っていたが、そうではないらしい。これには「派遣」と「請負」があるのだというが、これがどうにもよくわからないのだ。
「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分基準の具体化、明確化についての考え方」(厚生労働省・PDFファイル)を読んでも、小難しくてなにがなんだかさっぱりわからぬ。簡略化された「労働者派遣・請負を適正に行うために」(厚生労働省・PDFファイル)では、
1.労働者派遣事業
労働者派遣事業とは、派遣元事業主が自己の雇用する労働者を、派遣先の指揮命令を受けて、この派遣先のために労働に従事させることを業として行うことをいいます。2.請負
請負とは、労働の結果としての仕事の完成を目的とするもの(民法第632条)ですが、労働者派遣との違いは、請負には、注文主と労働者との間に指揮命令関係を生じないという点にあります。3.労働者派遣と請負の区分
注文主と労働者との間に指揮命令関係がある場合には、請負形式の契約により行われていても労働者派遣事業に該当し、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下「労働者派遣法」といいます。)の適用を受けます。
ところが、この区分の実際の判断は、必ずしも容易でないことから、この判断を明確に行うことができるように「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)が定められています。(4~7頁参照)4.労働基準法等の適用について
労働基準法、労働安全衛生法等労働関係法については、原則として派遣元事業主が雇用主として責任を負いますが、派遣先事業主が責任を負う事項があります。労働基準法、労働安全衛生法等労働関係法の適用関係は8~10頁のようになります。
なお、請負の形式による契約に基づいていても、労働者派遣と判断される場合には、同様の責任分担となります。
と説明されていて、これだけだと単に指揮命令系統のちがいだけのように思える。こうして区分の判断が容易でないために、以下にズラズラと判断基準がつづられていて、読むだけでウンザリしてしまう仕組みなのだ。ウンザリした挙句に、いまだよく理解できないというおまけまでついている。なんだってこんな面倒な仕組みになっていやがるのだろうと思う。
「業務請負 – Wikipedia」でも同様の説明がなされている。
業務請負(ぎょうむ – うけおい)は、アウトソーシング(外部委託)の一種で、民法上の請負契約に基づき、製造、営業など業務を一括して請け負う形態である。
受け入れ会社の指示に従う「労働者派遣」と違い、請負契約であるため、請負会社が労働者を指揮命令する。受け入れ会社は請負会社を通してしか指示できない。
よく読むと厚生労働省のファイルでも、
「請負とは、労働の結果としての仕事の完成を目的とするもの」
と説明されているが、ここでも、
「業務を一括して請け負う形態」
であるとされる。
なるほど、ここでやっとちょびっとだけ理解できた感じになってきた。一括して請け負って完成を目指すのだから、作業の進め具合はクライアントの管理下にないということだろう。外注や下請け業者をイメージすればよいのかも知れない。それならぼくでもわかる。わははッ!
外注や下請け業者はふつう、クライアントの職場では働かない。自分の会社で自分の設備で作業するものだ。それがクライアントの会社でクライアントの設備を使って仕事をするものだから、派遣なんだか請負なんだかワケがわからんということなのだろう。それで指揮命令系統がどうたらという話になるわけだ。
「偽装請負 – Wikipedia」でも両者のちがいがまとめられているが、
業務請負および業務委託や個人事業主の場合、本来はメーカーなどの顧客から仕事の発注のみが行われ、請負側は作業責任者を置き配下に人員がいる場合は、作業指示を行うのは請負側である。偽装請負となるのは請負側が人の派遣のみを行って責任者がいないか実質的に機能しておらず、顧客側の社員が作業指示を行っている状態を指す。
~中略~
一般に使用者が雇用契約を締結する場合には、雇用契約に基づいて労務を提供する者は労働者として、労働法による保護を受けることになる。ところが、民法におけるいわゆる典型契約としては、類似するものとして請負という契約類型が用意されており、請負人にはいわゆる労働法の適用がないのが原則である。
請負契約の特質は、請負人は仕事の完成を請け負うものであって、発注者は仕事の完成に関して対価を支払うものとされている点にある。この点が、労務に服することを約して労務に対して対価を支払う雇用関係との顕著な違いであり、裏返せば、雇用と請負を区別する判断基準となる。
ここで引っかかるポイントは、むしろ、
「請負人にはいわゆる労働法の適用がない」
というところかも知れない。クライアント側は法律に縛られないため、責任がきわめて軽くなる。「請負」においては労働者を保護する義務が生じず、面倒ごとはすべて業者まかせでよいわけだ。ならばクライアントは、「請負」を利用したいのが本音のはずだ。だから、実質は派遣なのに請負を装う違法行為があとを絶たないわけだろう。
余談ながら、偽装請負と聞いてふと思い出すのが、20年以上前にアルバイトをした業務請負業の会社だ。はじめに「支度金」があるというので、2度ばかり短期で働いた。ねぐらは寮制で、2段ベッドだったり8畳に4人のタコ部屋だったりした。風呂場へゆくと、背中に刺青をした男たちが身体を洗ったりしていた。当初は「妙なところへきちまったなぁ」とボヤいたものだった。
仕事はいわゆる「工場内軽作業」だ。電気機器や金属製品メーカーの製造ラインで、いずれも東証1部上場企業だった。その工場へ、朝、寮からバスに乗って出勤する。あとは工場でタイムカードを押し、そこの社員やアルバイト・パートとおなじに働くだけである。
業者から派遣されたぼくらはだいたい10人前後の班になっていて、たしか班長のような人も存在していたと思う。しかし、作業の指示を受けた記憶はなく、どんな人だったかはまったく覚えていない。どの作業をどのように進めるのかはクライアント、つまり企業側の責任者から指示されたと記憶している。だから、そのときの主任や係長や課長は覚えている。今思えば、あれも偽装請負だったのかも知れない。
作業はだいたい単調きわまりないもので、ベルトコンベアに乗って流れてくる基盤の、そのちっちゃな穴ボコに部品を突き刺しつづけたり、ハンダづけされた部品の余計な足をニッパーで切りつづけたりして、1日を過ごしていた。
あるとき、検品機器につながれたパソコンの調子がおかしくなり、企業側の主任やらなんやらが直そうとしたがうまくゆかなかった。20年以上も前のことなので、ほとんどの人はパソコンなんぞ使えなかったのだ。そこへ、ぼくが余計な口出しをして直してしまったために、以後、ぼくは製造ラインと検品機器の両方をウロウロするハメになった。しかし、主任は喜んでくれたし、ぼくも単調さから解放されてホッとしたものだった。
別の工場では、米粒のような大きさの平たい金属片を、エアカッターと呼ばれるもので日がな切りつづけていた。金属片をピンセットのようなものでつまんで台に乗せてペダルを踏むと、「バシューンッ!」とカッターが作動するのである。これが1日に3,000~5,000個あった。
エアカッターは3台あったが、他の人はペースを調整して、終業時間に合わせてきっちりと終わらせていた。けれど、ぼくはこの単調さに耐えられなかった。スピードアップして3時のオヤツの時間までには終わらせ、企業側の係長に次の指示を仰ぐことが多かった。たいていはどうでもよいような雑務ばかりだったけれど、本来は社員がやっていた機器のメンテナンスや検品作業までも教えてもらったので、飽きると余計な作業ばかりしていた。
ついでに工場の裏へまわって、よくサボった。体操をしたりタバコを吸っていた。工場の係長は知っていたと思う。しかし、黙認してくれていたようだった。
あるとき一服つけていると、不意に課長が通りかかった。さすがにマズいと思い、あわててタバコを消して逃げ出そうとしたが、呼び止められて観念した。
「休んでいるところ悪いんだけど……」
注意されるものとばかり思っていたら、自分の仕事を手伝って欲しいというのだった。ぼくは係長に断ってから課長についてゆき、仕事を手伝った。たしか、事務的な雑務だったと思う。それからときどき課長に呼ばれるようになり、余計な仕事が増えたが、くわえタバコで仕事をしていても見逃してくれたので、エアカッターの単調さから逃げ出すにはありがたかった。
おなじ班の中に遊び人ふうがいて、これが見かけによらずクソまじめだった。クソまじめというのは、チャイムによって始め、チャイムによって終わり、指示された作業だけを平均的にこなしているという意味で、だ。要するにダラダラ働いていた。彼は、ぼくがサボっているのを見つけては、よく「またサボってるッ!」と怒っていた。終業時間前に後片付けをはじめると、「もう後片付けしてるッ!」と怒っていた。
あまりにうるさいので、「あなたも休んでいても見逃してもらえるぐらい、きっちりと仕事をしなさいよ」みたいなことをいった。実際には「てめぇもサボりたかったら、上からガタガタいわれねぇだけの仕事をしやがれ」だったかも知れないが、いずれにせよ若気の至り、偉そうに、なんとも恥ずかしいことをいってしまったものだった。
業者との契約期間が切れ、工場通いもおしまいという日。仕事を終えたぼくは、残業をつづけている係長にお別れの挨拶した。
「やる気のある人がきてくれて喜んでいたのに……」
意外なことに、引き止められた。ぼくはやる気があったのではなく、単調な仕事をなんの工夫もなくダラダラとつづけるのが嫌だっただけなのだ。嫌な仕事は自分で工夫しておもしろくするか、さもなくばさっさと片付けるに限る。
係長が、準社員待遇で雇ってくれるといった。課長からも指示があったらしかった。とてもありがたい話だったけれど、ぼくは次の予定が決まっていたので、お断りするしかなかった。……旧きよき時代の、のんびりとした話である。
というわけで余談が長くなったけれど、この記事は余談のために書かれたようなものなので、まぁご勘弁いただきたい(笑)。ときどきはむかしを思い出して、「あー、俺もけっこうがんばっていたかも?」と自分を褒めて認めてやらないと、今を前に進むことがなかなかできにくいのだ。
で、そうそう、本題は派遣の規制強化がされるニュースである。請負ではなく派遣の話だ。しかも焦点となっているのは、ネットカフェ難民の話題で一躍知られるようになった、例の「日雇い派遣」である。すでに「グッドウィル、来月末めどに廃業 厚労省が許可取り消す」(6月26日・フジサンケイ ビジネスアイ)などで報じられているとおり、悪質な業者の台頭に鉄槌を下す格好だが、やはり気になるのは日雇い派遣でかろうじて生活を支えていた人たちの今後だろう。
「グッドウィル廃業 「仕事なくなる」 派遣労働者、募る不安」(6月26日・産経新聞)は、
神奈川県在住の男性(48)は「自分たちには日々の生活資金がない。日払いだから待遇が悪くても日雇いをしている。月給制の正社員にはなれない」とつぶやく。「GWがつぶれても他の日雇い派遣にいくだけ。かえって労働条件が悪くなる可能性もある」
派遣労働者でつくる「派遣ユニオン」(東京)には「仕事がどうなるのか」との電話やメールが寄せられた。関根秀一郎書記長は「派遣制度を考え直さないと本当の解決にはならない。国による雇用対策が求められている」と語気を強める。
と伝える。日雇い派遣の悲惨さはすでにあちこちで伝えられているが、次回の仕事の不確定さや現場での差別的な待遇、禁止業務への従業や2重3重の派遣、派遣業者の高額なピンハネなど、数え上げればきりがない。
なかでも失業保険や厚生年金などの社会保障の薄さが目立つが、「安心して働けない!! 日雇い派遣の社会保障(上)失業手当」(4月21日・イザ!)によれば、
厚労省は昨年9月、同じ日雇い労働者でも、事業者に直接雇用される人に適用される「日雇い雇用保険」を、派遣にも適用。一定の条件を満たせば、失業手当の給付を認める方針を打ち出した。
この雇用保険では、働いた日ごとに印紙を手帳に張り、「一定期間働いてきた実績」を証明。失業したときには、手当が給付される。厚労省は「この保険はもともと、毎日働く場所が違う人にも、雇用保険を適用するための制度で、日雇い派遣にも当てはまると判断した」と説明する。
2カ月間で26枚以上の印紙が張られれば、これまでの賃金に応じて、翌月から最大1日あたり7500円×17日分の失業手当が支給される。月収に換算すれば、最大12万7500円になる。
印紙を張る日雇い雇用保険の手帳は、労働者が自分でハローワークに申請して受け取る。日雇い派遣元の事業者もハローワークで印紙購入通帳の交付を受け、郵便局で印紙を購入。就労日ごとに労働者の持参する手帳に印紙を張る。印紙代は保険料として労使で折半する。
とのことだが、なんだ、これっていわゆる「白手帳」のことじゃないのか?
これは、単にホームレスというより日雇い労働者業界全体の話なのだけれど、この業界には「雇用保険日雇労働被保険者手帳」というものがあって、俗に「白手帳」と呼ばれている。この手帳に日雇い労働者は印紙を貼り、これが一定期間で一定数以上だと、これまた俗に「アブレ」と呼ばれる日雇労働者失業保険が支給される仕組みがある。厚生労働省の方針は、おそらくこの制度を日雇い派遣にも適用したものだろうと思う。
しかし、こうなってくると日雇い派遣というのは、ドヤの代わりのネットカフェといい、ますます従来からいる日雇い労働者の延長線上である気がしてくる。延長線上というより、もはや現代における新型の日雇い労働者といい切ってよいのだろう。
さて、こうした日雇い派遣が規制を強化されるわけだが、実は別の見方も存在する。「グッドウィル廃業と「日雇い」健全化は別問題」(7月10日・オーマイニュース)は、
■日雇い派遣自体が「悪い」わけではない
ただ前にも指摘したが、日雇い派遣については、求職側も求人側も一定の需要がある。なくなると雇用の不安定につながりかねない。それをムリに規制すると、“もぐり日雇い”が出て来る可能性は十分ある。そもそも日雇いは以前は“もぐっていた”のだ。
消費者金融の金利規制でも「闇金融」の問題が指摘されたが、ここでもそれと同じことが言える。少なくとも、グッドウィルの廃業と日雇い派遣の「健全化」は直接には結びつかない。そう考えるべきだ。
と伝えているが、これは微妙ないいまわしである。
一派遣業者が廃業したからといって、それで日雇い派遣の実態が健全化されるわけではない。その意味では両者は結びつかないから、いっていることは正しいだろう。だが、需要と供給があるからというだけでは、日雇い派遣を肯定する理由にはなるまい。
肯定できるケースは、専門技術を持った即戦力となる人の副業や、イベントなどの突発的な場合に限られるのではないか。少なくとも、ワーキング・プアの問題として語られている日雇い派遣については、肯定的な要素が入り込む隙はないと思う。
ただ、おそらくこの記者は、単なる規制強化ではワーキング・プアが更なる窮地に追い込まれる危険を考えているので、やはり前出「派遣ユニオン」の話のとおり、根本的な雇用対策がなされなければ、より地べたに近い世界で生活している層は、いつまで経ってもまともには暮らせないだろう。
ぼくのようなホームレスも、社会復帰といったところでせいぜい日雇い派遣どまりで、その先に道はないのが実情だと思う。しかし、道はあるものではなく、創るものである。では、新たな道を創り出してゆかなければならないのだが……