なんだか最近はコミュニケーション能力が重要視されているんである。ふだんの日常的な人間関係をはじめとして、仕事でもコミュニケーション能力が非常に重要視されているんである。企業の採用担当者も、コミュニケーション能力をとても重要視しているんである。ビジネスコンサルタントなども、コミュニケーション能力をやたらと重要視しているんである。あなたの友だちも家族も、みんなコミュニケーション能力を重要視しているんである。
ぼくはコミュニケーション能力がとても低いんである。というか、ない。相手の話を聞きながら、うなずいているだけなんである。すばやくてきぱきと的確で明快な返答などしたことがないんである。打てば響く、という褒めことばがあるが、打たれてもびくともしないんである。それだから、相手は首を傾げてしまうんである。
どうも、それではいけないらしいんである。がしかし、寡黙な人間がこの歳になって立て板に水とばかりにしゃべれるようになるのは、もう無理だと思うんである。もうこのままやってゆくしかないんだと思うんである。それで嫌われたって、もう仕方ないと思うんである。それがダメだといわれても、しょうがないと思うんである。
黙ってフンフンと話を聞いていては、なぜいけないのだろうかと思うんである。でも、おもしろい話とか気の利いた話とか感心する話とか、そういうのができないとダメな人間だということになってしまっているんである。いっしょにいておもしろい人とか、そういう人間でないとダメだということになってしまっているんである。
ぼくはいっしょにいてもおもしろくないんである。つまらないんである。だから人間としてダメらしいんである。現代はコミュニケーション能力が高くないと、人間としては認められない時代なんである。コミュニケーション能力が低いと、それだけで人間扱いされないんである。もう、ぼくは貝になりたいと思うんである。