ホームレスのフラストレーション

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ホームレスのフラストレーション

生じた欲求が満たされない場合、人はフラストレーション状態に置かれる。なんのことはない、欲求不満というやつです。フラストレーションの原因となる障害には、物理的・社会的・人的などの外因性のものと、内的欠乏・心的飽和・葛藤などの内因性のものがあるが、ここではホームレスに関係のありそうなもののみについて説明する。

まず社会的には、中高年層の雇用状況の悪化がある。仕事がしたくても求人がない(ということになっている)のだ。余談ながら、むろんたしかにいうまでもなく悪化はあるのだが、求人がまったくなにもなくなってしまったわけでもない。ホームレス問題を労働と雇用の問題としてだけ語ることの無理はここにあるのだが、いずれにせよ労働問題はこのカテゴリーで扱うべき主要な題材ではないので割愛する。

次の障害は内的欠乏である。その仕事するのに、それだけの能力がないという場合だ。求人に見合うだけの能力を持っていないので仕事に就けない。自分の能力のなさが障害となる場合に生ずる欲求不満である。

ホームレスの葛藤

最後は葛藤だが、これはおなじような強さを持つ複数の目標が両立しない状態をいう。この状況にある人間は、不安と緊張の状態に置かれ行動できなくなる。K.レヴィンによれば葛藤には3種類ある。

A.接近-接近葛藤
おなじような魅力を持つ複数の目標のうち、どれかを選ばなければならない状態。社会復帰して贅沢な生活を送るのは魅力的だなァ……、でも自由気ままなホームレス生活も捨てたもんじゃないしなァ……とか。いわゆる「好きでホームレスをやっている」タイプが持つ葛藤だが、双方ともおなじように魅力的なので、どちらかひとつを選択すれば葛藤は消えてしまう。ちなみに、後者を選択した人を「世捨て人」と呼ぶ。
B.回避-回避葛藤
おなじように回避したい複数の目標のうち、どれかを選択しなければならない状態。社会復帰してまたぞろ苦労するのはヤだなァ……、でもどん底のホームレス生活もヤだなァ……とか。「怠け者のホームレス」に当たるタイプが持つ葛藤で、なにか第3の道を見つけることができれば解決する。できない場合は緊張と不安が持続することになる。
C.接近-回避葛藤
ひとつの目標が同時に正と負の性質を持っている状態。社会復帰して人並みな生活がしたい……、でもそうするために今以上にひどい思いをさせられるのでは耐えられない……とか。上記以外のホームレスが持っている葛藤である。いわば報酬と罰とが同時に与えられる状態で、この状況下では人は身動きができなくなり、容易に葛藤を解決できない。

というように、ホームレスが持つ葛藤はこのように分類することができる。いうまでもなくいちばん厄介な状態にあるのは、Cの接近-回避葛藤を持つホームレスだ。施設は使いたいが動物のように扱われるのはたまらないだとか、施設を使うことで落伍者の烙印が決定的になるだとかの葛藤が考えられる。その結果、
「俺たちは動物じゃない」
「お上の世話にはならない」
といった発言につながってゆく。

ホームレスのフラストレーション反応

これらのフラストレーション状態に置かれた人間が見せる反応にはさまざまなものがあるが、代表的なものを挙げる。

攻撃反応
最も一般的な反応で、障害となる対象を攻撃して排除しようとする行動である。暴力でなく悪口や皮肉など嫌がらせの形をとることもあり、また第三者にやつあたりする形で表出することもある。
退却反応
欲求の水準や自分の関与度を下げる。消極性や不活発な態度、要するに意欲をなくしたり無感動や無関心になるなどして欲求のレベルを下げ、フラストレーションを低減する反応である。アパシーともいう。戦時中の強制収容所や捕虜帰還兵などにも見られる反応。
固着反応
問題の解決には役立たない無意味な行動を繰り返す反応。手を洗いつづける行為などは、洗浄強迫といった強迫性障害とも関連付けられることがある。勝てないギャンブルを延々とつづけるなどというケースも含まれる。
退行反応
より原始的で未熟・未分化な行動をとり、不安を低減する反応。赤ちゃんがえりや甘え、過度の飲酒で羽目をはずすケースなどもこの範ちゅうである。
迂回反応
目標の達成を阻害する要因を迂回しようとする行動。要するに、別の手段を工夫して目標をクリアしようとする反応である。ホームレス施設を経由せずに自力脱出を図る行動などが考えられる。

以上が代表的なフラストレーション反応だが、なんだかやけに不機嫌なホームレスや、てんで無気力に見えるホームレス、ガラクタばかり集めているホームレスとか、どうにも甘えているとしか思えないホームレス、昼間から宴会でバカ騒ぎしているホームレスなど、これらフラストレーション反応の結果であるということができよう。

ホームレスの学習性無力感

学習性無力感はとりわけ退却反応と関わりが深く、結果的に深い抑うつ状態を作り出す。理屈は簡単で、何度トライしても状況に変化がない場合、トライすることそのものをあきらめてしまうようになる。また、この学習は継続的なもので、なんらかの事情で障害が取り除かれても、もはやトライさえしないという状態に陥る。
「やるだけ無駄さ」
というワケだ。フラストレーション状態に置かれ、はじめは攻撃反応を示して激しく抵抗していたが、それがまったく効果がないと知るとやがて退却反応に至るようなケースは、この学習性無力感で説明される。

以上の説明からわかるとおり、ホームレスが日々見せるさまざまな言動には理由がある。そして、それは極度のフラストレーション状態に置かれれば、ふつうに現れてくる反応でもある。ふつうに起こるふつうの反応がホームレスにふつうに起こっているということに過ぎない。むろん、個体差はあれ、あなたにも起こるふつうの出来事なのである。

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