責任と差別の認知心理学

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原因帰属と基本的帰属錯誤

 誰かになにかが起きた。その原因は彼自身にあるのか、外部の要因なのか? これを原因帰属と云い、前者を内的原因、後者を外的原因と呼ぶ。

 たとえば、わたしが石につまずいて転んだ。これはわたしのせいか、それとも石のせいなのか? ここでわたしはその石ころを蹴飛ばして、
「こんちくしょう!」
 ぐらい云うだろう。こんなところに石などあるのがいけない、と思う。ところが、それを見ていた知り合いが、
「ドジな野郎だなぁ」
 ゲラゲラ笑い、石につまずくわたしが悪いと云う。なぜ、こんな見方のちがいが起こるのか。

 理由のひとつは、行為者-観察者効果にある。行為者であるわたしは、転んだとき、真っ先にその石を見る。対して、観察者の知人は、まずわたしに注目する。この視点のちがいが、そのまま原因帰属のちがいになって現れる。

 もうひとつは、自己奉仕バイアスだ。これは、自分を好ましく思おうとする心の働きで、自己高揚バイアス自己防衛バイアスに分類される。前者は、よいことがあったときにその原因を自分に求める、つまり内的原因に帰属させる働きだ。「努力の成果だ」というわけ。後者は、悪いことが起きたとき原因を外部に求める、外的原因に帰属させる働き。「運が悪かった」というアレである。

 そうしたわけで、わたしは自己防衛バイアスによって原因を外部に帰属させ、知人は他人のことなので内的原因に帰属させた。これら、実際の原因をきちんと検証せずに起こる認知のゆがみを基本的帰属錯誤という。

究極的帰属錯誤

 さらに、自分の所属する集団が、認知のゆがみを引き起こす。

 たとえば、あなたは今、草野球のチームに属している。そしてまた、いつもいがみあって仲の悪いライバルチームがある。彼らとの試合になると、決まってヤジ合戦。あなたは自チームの四番バッターがヒットを打てば、
「さすがに四番、たいしたものだ」
 エースピッチャーがフォアボールを出しても、
「あれは審判が悪い」
 などと云う。

 ところが、相手チームがホームランを打つと、
「やろう、インチキなバットを使ったな!」
 ピッチャーが三振でも取ろうものなら、
「イカサマなボールを使いやがって!」
 などと叫ぶかも知れない。

 これは、自分が属する集団(内集団)には自己奉仕バイアスが働くため、よいことは内的原因、悪いことは外的原因に帰属させることで起こる。自分が属さない集団(外集団)には、その逆のバイアスが掛かる。簡単に云うと、内集団に対してはひいき目になり、外集団には厳しくなる。これを究極的帰属錯誤と呼ぶ。

相関の錯誤

 また、相関の錯誤、あるいは錯誤相関と呼ばれるものがある。

 これは、マイノリティ(少数派)の望ましくない行動は過大評価される、というもので、関連のないところにあたかも因果関係があるかのように錯覚することである。

 さて、こうして見てくると、ホームレスや生活保護利用者が、やたらと非難される理由のひとつがわかってくる。

1)人間は、他人の失敗は、自己責任にしたがる
2)人間は、自分が属さない集団には、厳しい眼を向ける
3)人間は、マイノリティのネガティブな面をことさらにあげつらう

 生活困窮者に対するバッシングの背景には、こうした認知のゆがみが働いている。意見を持つ前に、まず自身に認知のゆがみがないかどうかを検証してから、改めて問題を見つめなおすことが肝要だ。

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