成熟と未熟/システムとしての支援

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関東地方は夕方から凄まじい雨になった。ためにネットカフェにきている。時間があったので、あちこちのサイトを覗く。かつて出入りしていたサイトも見る。最後に見てからかなり日が経つ。なにが書いてあっても、もうそれほどにショックは受けないだろう。予断である。

ネット喫茶に泊まるのは、なるべくやめましょう。過去にそういった人の書込がありましたが、あまりいい結果にはつながらないようです。ネット喫茶を利用するお金があるのなら、栄養のある食事をしたり、簡易宿泊所に泊まるなど、もっと有効なお金の使い道をするほうが賢明です。

ネットカフェから書き込んできたホームレスと思われる人物に、ボランティアのエフ氏が返答している。ここに出てくる「過去にそういった人」というのはわたしのことである。よい結果につながらず、賢明でなかった人物というのはわたしのことであるが、まさかこんなところで引き合いに出されているとは思いもしなかった。エフ氏とはいろいろな話もしたし、まぁそれなりの人物なのだろうと思っていたが、このように本音を聞いてしまうと多少ショックではある。

それにしても見識が狭いと感じる。簡宿などよりマンガ喫茶やネットカフェのほうが安上がりなのである。いまや週末の深夜など、どこもサラリーマンや学生で満席だ。もっとも、彼らはドヤなどには泊まらないだろうが……。ドヤに泊まってボーッとテレビなど見ていてもなにも進まない。ネットで必要な情報を探すほうが遥かに賢明であろう。負の側面ばかりを強調するのは、自身が情報機器を使いこなせていないためではないのだろうか。偏った見識を土台に他人を導こうとするべきではあるまい。

なにが自分に有効なのか、それは本人にしかわからないものであろう。なによりもまず喰い物、といった発想は、しょせん飢えた経験のない人の語る一般論に過ぎない。飢えて喰い物のみを追うのは動物である。飢えてなお自律し、自分に必要な別のものを求めることができる、だから人間なのだ。そして、わたしは人間なのである。

エッチ氏というのがいて、べつにスケベな人物ではないようだが、自称ホームレス、やはりネットカフェから書き込んでいるとおっしゃっていた。しかし、これがなんと全文かな書きであったものだった。パソは素人なのかと思っていたら、訊いたことにサイトのアドレスで答えてくれたりしていたのだから、まぁそういうものでもなかったのである。

ふつう、経験を重ねるにしたがって、どうすれば漢字に変換できるのかぐらいは考える。しかしこの御仁、いつまで経ってもかな書きのまんまであった。いかにもわざとらしかったのだけれども、わたし自身、かつてはべらんめぇ口調など使って多分に演出を施していたため、とやかくいえなかった。なにより「芸」があると、ほかのことなどどうでもよくなる。氏の書き込みもまた「芸」の範疇であろうと思っていた。

と、わたしが去ってから、氏の書き込みが漢字かな混じりのふつうの文章に戻っている。わたしがそこを去る原因となったエヌ氏に詫び、さらに持ち上げてもいる。なにを詫びているのかというと、かつてエッチ氏はちょっとすねたような挑発的な発言をしたのだが、わたしがそれに乗っかってエヌ氏を責めたという、つまりそうした自分の発言を詫びていたのだった。ご本人のいう「程度の低い」発言は、意図的なものであったという。うかつにも、わたしはそれに便乗してしまったわけだ。

やられたな、と思う。エヌ氏というのは一般社会には受け入れがたいかなり過激な主張をする御仁で、一般へのホームレス問題の理解を進めたいわたしは常々苦々しく思い、このときも激突していたのであった。結局、その過激さに同調する者が多かったので、わたしは離れざるを得なかったのだが、しかしこの発言を読む限り、まんまとやられたな、と思う。わたしは程度の低い発言をする、頭のおかしなホームレスであったと結論づけられているようだ。当初からそのようなイメージを植えつけて追い払うのが目的であったと考えれば、この変節は納得がゆく。まさに、してやられた、であった。

よく読んでみると、どうもこのエッチ氏、いわゆるスケベな……もとい、社会活動家のように見えなくもない。「闘争」や「暴動」などという扇動的な態度を「純真な心」の発現と勘ちがいしていたり、社会活動家が「極左集団」などと揶揄されていることを自分のことのごとくに嘆いて見せるあたり、いかにもそれらし過ぎる。が、実際には、権力闘争のごとき態度は、単なる未熟さの発露なのである。発達段階でいえば青年期で、混沌とした世界での競争に生き残るために、権力闘争を紛争解決の手段としているのに過ぎない(詳しくは『Has_Conflict_Resolution_Grown_Up(PDFファイル)』参照。英文です)。それがなぜ「純真」に見えてしまうのかといえば、成熟さが「妥協」や「譲歩」によって成り立っているという、思いちがいがあるからだ。

ふだんの社会生活では駆け引きを繰り返し、折れたくないところを折れ、譲りたくないところを譲り、納得できないことを納得する、すべて我慢である。そうしておいて「これが世の中、これが大人の世界さ」と諦観し、うそぶいてみせる。そのような世界観に日常を支配されていて、鬱屈した思いに日々を過ごしているからこそ、若さとエネルギーの塊でぶつかってゆくような「闘争」が「純真」に感じられてしまうのだ。だが、実際には、それは単に未熟なだけである。

成熟とは、べつに「妥協」や「譲歩」や「諦観」で成り立っているわけではない。それは単に「協調」で成り立っているものだ。「妥協」も「譲歩」もせずに、しかし対立せず、ひたすら「協調」することを目指してゆく。それだけにむずかしい。だから、成熟、なのである。だが、こうしたことは、なかなかわかってもらえないようだ。

わかってもらえないといえば、わたしがべつに社会運動を批判しているわけではないことも、まったくわかってもらえないようである。ホームレス問題は現行の福祉やボランティアの炊き出し支援などだけではもはやどうしようもなく、ある種の社会運動が行政を動かしてきた事実がある。そのおかげで救われたホームレスもまた多い。それは当然に評価されてしかるべきだ。

だがしかし、それだけですべてがまかなえるほど、この問題は単純ではない。現に、数多くのホームレスがその指の間からこぼれ落ちているのも、また事実である。それをして、

こんな業を背負ってる人が救われるのは仏の道くらいしかないんやないか・・。そんなふうにも思えてねー・・・

などとのたまっているようでは、自らの方法論の限界にあまりに無頓着すぎるだろう。

おそらく、網羅的な方法論は存在しない。ならば、まずは自分たちのターゲットとなるホームレスに全力を投入しながら、他については批判なく、別の方法論を模索すればよい。

いうまでもないことだが、これはターゲット外のホームレスを放り出して無視しておけという意味では決してない。自分の方法論が通用しないとわかったならば、みずからのやり方を押し付けないということである。そうして接しているうちに、新しい方法が見えてくるはずだ。

社会運動系、福祉系、宗教系など、支援者にもいろいろある。しかし、今のところ、連携してシステムとして機能しているわけではないようである。つまり、自分が堕ちている地域で活動している支援者の種別によって、ホームレスのその後が決定してしまう状況になっている。こいつはどう考えてもマズいだろう。支援者もシステムとして機能することが必要だ。とはいえ、そこはそれボランティア、ゆるやかに成すべきものであるのはいうまでもないが。

余談ながら、わたしは家族関係に問題を抱えている。むろんそれだけではなく、仕事への自信喪失やキャリア不足などの問題もあるが、主たる問題のひとつは家族のことだ。これは社会運動系、福祉系、宗教系、いずれの支援者の方法論でも対応できない。一時、公的機関を利用した際に状況が悪化した過去から、ふたたびそれらを利用したら最後、解決不可能になってしまう懸念も大きい。現行のシステムでは、ここに他者の介入できる隙間はほとんどない。

かくて、わたしはそのすべての責を押し付けられ背負わされたまま路上を放浪しつづけ、にっちもさっちもゆかぬ状況に押し潰されそうになりながら、しかしなお食い下がる術を模索している最中だというのが事実なのである。べつに頭がイカレているわけではないし、無駄なことをしているわけでもないのだ。

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