ホームレス支援活動のマトリックス

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時間管理のマトリックス
  緊急 緊急でない

第1領域 第2領域
必須 生産性とバランス
■締切のある仕事や会議
■差し迫った問題
■クレーム処理
■病気や事故
■危機や災害
■豊かな人間関係づくり
■勉強や自己啓発
■準備や計画
■予防
■健康維持
■真の意味でのレクリエーション




第3領域 第4領域
錯覚 無駄
■重要でない電話や会議
■妨害や邪魔
■突然の来訪
■無意味な接待や付き合い
■暇つぶし
■単なる遊び
■だらだら電話
■多くのテレビ
■ぶらぶらネットサーフィン
■意味のない行動

 上の表は「時間管理のマトリックス」と呼ばれている。ビジネスコンサルタントのスティーブン・R・コヴィーが提唱した概念だ。主にビジネスにおける時間の使い方に優先順位をつけるためのアイディアで、ビジネスパーソンには広く知られている。新年度が近いこともあって、最近になって勉強した人も多いと思う。あるいはこれから研修で教わるかも知れない。気の利いた会社であれば、だが。

 さて、これは横軸に「緊急度」、縦軸に「重要度」を取り、日々の作業を4つの概念に区分けするものだ。見てわかるとおり、第1領域の「緊急で重要な作業」ばかりしていると時間はいくらあっても足りず、文字どおり作業に忙殺されることになる。第3領域の「緊急だが重要でない作業」は時間の浪費で、可能な限り避けなければならない。第4領域の「緊急でも重要でもない作業」はストレス解消などと位置づけられることもあるが、実際にはまったくの無駄な時間である。

 残る第2領域の「緊急ではないが重要な作業」がいちばん大切であり、ここにいかに時間を割くか、ということがこの表の意味するところなのだけれど、これをホームレス支援活動にあてはめてみたのが下記の表だ。

ホームレス支援活動のマトリックス
  緊急 緊急でない

第1領域 第2領域
必須・即物的 効果性・長期的
■病気や事故への対応
■炊き出し
■夜回り
■相談会
■役所などへの申請手続き
■就職と住居の斡旋
■寄付と募金活動
■理解のためのコミュニケーション
■信頼できる人間関係の構築
■積極的・継続的アウトリーチ
■創造的アプローチ
■啓蒙と教育
■勉強や自己啓発
■準備や計画




第3領域 第4領域
錯覚 無駄
■多くのホームレス会議
■多くの抗議運動
■役所との不必要な打ち合わせ
■ホームレスとの時間つぶし
■無意味なコミュニケーション
■多くのホームレスイベント

 多くのホームレス支援活動は、そのほとんどが第1領域と第3領域に集中している。ボランティアのコンセプトやポリシー、活動記録を見れば、とりわけ第1領域の占める割合が高いことがわかる。緊急性の軸に沿って活動しているために、眼の前の問題に忙殺されているわけである。したがって、もっとも大切な第2領域の作業は、いきおいおろそかにならざるを得ない。たとえば、近年になって第2領域に属する「人と人とのつながり」を重要視する傾向が強まってはいるが、実際には目立った活動はおこなわれていない。

 ぼくがなぜ既存のホームレス支援活動を批判することが多いのか、この表でおわかりいただけるだろう。現在のボランティア活動の多くは緊急性の軸に沿った活動であるために、「実際的」ないし「現実的」と称する即物的な第1領域を最優先させており、重要で長期的な効果性を持つ第2領域の活動を、実質ほとんどおこなっていない。その場限りの「点」で作業し、「線」としてつながった活動ができていないのである。

 第1領域の中には「炊き出し」→「相談会」→「役所などへの申請手続き」という流れがあり、多くの炊き出し現場ではセットメニューになっているものだが、これは当面の生活を安定させるための方策である。長期にわたって効果性を発揮するものではないので、「線」ではなく「点線」といえる。「線」の作業とは一時的ではなく、継続的で持続的な作業なのだ。余談ながら、多くの炊き出しはホームレスに食事を振舞うことが目的ではなく、そこから相談会へとつなげてゆくことを目的としておこなわれる。

 第1領域の支援は「刈る」作業といえる。そこいらにあるものを手当たり次第に刈り取るだけの仕事である。刈ったら終いの短期的な「点」でする、即物的な支援といえるだろう。この領域は次から次へと忙しいが、やることは単純で手順が決まっているので、要領を覚えてしまえば実はそれほど難しくはない。

 しかし、第2領域の支援とは「種をまいて育てる」作業である。草木が育つには長い時間がかかる。毎日、水をやり手入れをしなくてはならない。それでいて不測の事態も起こる、非常に手間のかかる作業なのである。ものごとはインスタントにはでき上がらない。種から芽を出し花を咲かせるには、それに見合った長い時間が必要となる。

 ボランティアに限らず多くの人が行動の基準を「緊急度」に置いて、日々を過ごしている。したがって、重要なのに緊急でないものは後まわしにされ、結局いつになっても手をつけられない。言い訳は決まって「忙しいから」となる。

 現在のホームレスのカテゴリーは、これまでのような「寄せ場の労務者」あるいは「高齢者」という枠組みを大きく越え、さまざまな職業、さまざまな年齢層が入り乱れはじめている。また、これらがフリーターやワーキングプア問題とリンクしていることはご存知だろう。ということは、格差社会なるものの進行が止まらぬ限り、従来型のホームレスは時間とともに数を減らすが、新型のそれは増えてゆくということである。その新型ホームレスに、果たして旧来の支援方法で応えられるのだろうか。

 過去に「NPO法人「もやい」」でも触れたが、職を失って窮地に立ったフリーターがホームレス支援団体を頼ったところ、

1件目、千葉市のNPOは「野宿者じゃないから支援できない」。
2件目、東京・山谷のNPOは「野宿者でなければ、具体的な支援はできない」。
3件目、山谷の別のNPOは「東京在住じゃないと支援できない」。
4件目、また別の山谷のNPOがやっと「東京在住じゃないので支援はできないかもしれないが、相談には乗る」と言ってくれた。

 という例がある。幸いこの人には積極的で直接的な行動力があり、また粘り強かったために、最後に「もやい」の支援を受けられるのだが、誰もが彼のように行動できるとは限らない。相談すらおこなえないで路上生活に突入するケースがあっておかしくはない。

 かつて、ニートが取りざたされたとき、このことが問題になった。相談窓口だけつくって「さぁいらっしゃいませ」とやっても、自分から相談にやってくるレベルの人はさほど問題にならないのだ。窓口があってもやってこない、自分からは動けない人が問題なのである。そして、この層を扱うのは第2領域の作業なのだ。

 炊き出しの行列に並ばない、並ぶことができないホームレスもいるわけである。むろん、行政や支援組織の相談窓口にもゆけない。「ビッグイシュー」も売れない。寄せ場も知らない。ドヤにも泊まらない……。抱える事情の多様化によって、現代ではそうしたホームレスが確実に増えはじめているだろう。

 このレベルに対応するには第2領域のアプローチが必要だが、前述のとおり、その種の活動はほとんど見られない。この領域に集中する新しいタイプのホームレス支援が、これからは求められる。第2領域の支援に集中することで第1領域の支援の必要自体が減ってゆくため、やがて支援活動の中心は第2領域へと移行するだろう。そのとき初めて、実際に「ホームレスが減った」ということができる。

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