聖夜の祈り

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静寂のクリスマス・イブ。ふだん浮かれた夜の街はどこか寂しげで、それでいて人々は、胸のうちにある幸せを隠し切れない足取りで流れてゆく。青と白の電球で飾られたツリーに見守られながら、静かに肩を寄せ合うカップル。跳ねるように歩いてゆくおさな子を追う母親の温かな眼。赤と緑に彩られた包みをぶら下げて急ぐ男は、今宵だけのサンタクロース。

だいだい色に揺れている飾り電球がこころ温かい。ほんのりと白く浮かび上がるイエスの像。悲しいのか優しいのか見きわめのつかない表情のまえ、ぼくは右ひざをついてこうべを垂れた。ひざが軋んで悲鳴を上げ、腫れたアキレス腱に電撃の痛みが走る。

キリスト教なんざ興味がない。仏教、イスラム、ユダヤ教、儒教……。根にある思想はみな一緒。なにがどうだってかまいやしない。だがイエス、あんたがおもしろい男だったのは知っている。あんたみたいにバカな男の話は聞いたことがない。あんたは信頼できる。だから、俺に手を貸してくれ。

マリア。ことばなどいらない。導きも教えもいらない。ここにきて、今あるがままの、そのままの俺を抱きしめてくれ。

遠く、砂利石を踏む足音。すばやく立ち上がって急ぎ足、ちいさな教会の庭を出る。なにか背中でした声もすでに遥か。闇の中、永遠に灰色に伸びつづける道を歩く。

わけもなく不意に胸をつかれ、突然にあらゆる景色がぼやけはじめた。顔をしかめてこらえても、歯を食いしばっても、すべてのものがにじんでゆくのを止められない。天を仰いだ。仰いだまま歩きつづけるほかなかった。

やがて輪郭を取り戻した空には、鉛色の薄い雲が広がっていた。ところどころがちぎれていて、あいだから漆黒の宇宙がのぞいている。けれど、いまだ、俺の道を照らす星は見えない。

祈りのことばなど知らない。神も仏も信じない。だがイエス、あんたって男は信頼できる。今どこにいるんだ? ここにきて、俺に手を貸してくれ。マリア、ここにきて、俺を抱きしめてくれ。今あるがままの、そのままの俺を。

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