年忘れホームレス座談会

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「なんじゃ、健次郎。おぬし、またひとりぼっちになってしまったのう」
「よせやい。元に戻っただけじゃねぇか」
「そうもいえるが……。で、どうじゃったかな。ブログを1年半やってみて」
「……疲れた、というのが率直なところだな」
「そうか、疲れたか」
「俺のような状況にあって、ふつう、こういうことはしねぇし、またできねぇ」
「ほかにもブログをやっているホームレスはおるぞ?」
「それぞれ生活環境はちがうから一概にゃいえねぇが、まぁ連中もふつうじゃねぇのよ(笑)」

「彼らのブログは世間とうまくやっているように見えるが、おぬしはどうじゃったかな?」
「いけねぇ」
「というと?」
「まぁあれだ。また世間に嫌われたな、と、そういうことだ」
「そうか、嫌われたか」
「いつものことだ」
「いつものこと?」
「いつもこうなっちまうのよ。気づくと嫌われている」
「知らんうちに嫌われているのかの?」
「そうじゃねぇ。俺は嫌われることを承知でなぜかやっちまうんだ」
「自分じゃわからんのか?」
「やっちゃまずかろうってのはわかる。だが、やらずにゃいられねぇ。だから『なぜか』なのよ」
「ふむ?」
「交流分析にゲーム分析ってのがあるだろう? あれじゃねぇかと……」
「また心理学かの。読者は辟易しておるぞ?」
「……まぁ説明が必要なら交流分析で説明する、ということよ。アドラーでもいい。他人に説明するのに裏づけがなきゃどうしようもねぇやな。まぁ嫌われるのはいつものことだが、しかし今回はものすごい嫌われ方だった、な、と」
「どのあたりがものすごいんじゃな?」
「そいつをいっちゃ角が立つ。まぁいろいろだ。それにしても俺は嫌われもんなんだなぁって、つくづく実感したぜ」

「で、ブログについてはどんな感想じゃな?」
「最悪」
「あれで最悪かの?」
「運営者が嫌われるようなブログは最悪だ。価値がねぇよ」
「価値がない?」
「そう思うね。無価値、無駄。俺そのものだ」
「ちょいと待て。無駄だった?」
「そうじゃねぇか? 無駄じゃねぇというんなら、じいさん、よさげなところをつまんでうたってみな」
「……いや、わしは、うたえといわれてものう」
「いいからうたってみな」

「たとえば、おぬしの現状で、ふつうネットでの発信はできんじゃろう。それをしたことだけでも価値があると思うが……」
「つづけろ」
「内容はまぁ中の中。路上生活の過酷さを考えればそれでも充分……」
「中の下だ。つづけろ」
「減ったとはいえ良心的な読者もまだおる……」
「大半は無関心な読者だ。少なくとも好意的じゃねぇ。動きを見てりゃそれがわかる。つづけろ」
「内容に共感した読者もいたしの……」
「新しい人は、という注釈が必要だな。ホームレスに慣れ親しんでいる連中は、共感どころかとっくに逃げ出してる。支援関係者で今ここを読んでるのは、ほんとうにひと握りなんだぜ? そいつらだってなにしにきてんだかさっぱりわからねぇんだ。つづけろ」
「ニートやひきこもりとホームレスとの接点という新しい視点を提供もした……」
「ありゃ元々は、にせ藤沢人さんのアイディアだ。それに既存のホームレス関係者たちは『意欲はあるが仕事がないホームレス』を支援してるんで、『仕事があっても意欲のないニートやひきこもり』はむしろ非難の対象だ。双方の支援の領域が重ならねぇのはそのためだ。つづけろ」
「ホームレスの心理に深く踏み込んで解説した……」
「実際には大学1年生レベルの知識に過ぎねぇ。まったく正反対の説明もできるはずだ。それと関係者、特に支援者たちには学問的な説明が嫌いなのもいるから、連中には無視されたろ? つづけろ」
「一般市民を語るより、批判しにくい支援者側の問題点を指摘して、憎まれ役を買って出た……」
「無関心な一般市民は単に無知なだけだ。やたらとホームレスを非難している奴は、そいつ自身になにか問題があるんで、そういうのは語らずともどうってこたぁねぇ。むしろホームレスのサイドにいると思われている支援者たちが抱えている問題のほうが、今後を大きく左右するんだ。だが、その点を指摘する奴はまずいねぇ。やると嫌われるからな、俺のように。連中にゃ仲間が大勢いるからな。『健次郎なんて関係ないじゃん』といわれておしめぇよ。つづけろ」
「延べ23万人の読者が89万ページの記事を読んだ……」
「100万人なら胸を張るが……しかし、よく考えりゃ23万という数字もものすげぇな。上なんざ見りゃきりがねぇ。こいつは素直に驚いとこう。つづけろ」
「……なんかわし、疲れてきたぞ」
「そうだろう? だから俺は嫌われるのさ。もうやめよう」

「おぬし、ほんとうに無駄だったと思っておるのかな?」
「……実は、必ずしもそうじゃねぇ。少なくとも、俺のやってきたことにまちがいはねぇ。俺は伝えなければならねぇことを書いてきたし、いってることにまちげぇはなかった。これについちゃ確信がある」
「ほう、確信とな?」
「ある。いろいろ悩んでぐらぐらと揺れまくりながら書いてきたが、今は断言できる。俺はまちがっちゃいなかったよ」
「それはなによりじゃ」
「ネガティブな側面を強調し過ぎて読者離れを起こしたのは残念だったが、この程度の話についてこられねぇのでは、どちらにしろホームレスに関わることはできねぇやな」
「そりゃ誰のことじゃな?」
「おおむね関係者を指してる」
「またか。嫌われるぞ」
「かまうこたねぇ。状況を大きく変えるには、行政にしろボランティアにしろ、支援する側が大きく変わらねぇともうダメなんだ」
「し、しかし、行政はともかくボランティアは善意の……」
「んなこたぁわかってる。『やる気、世直し、手弁当』とかいうんだろう? 誰にいわれるまでもねぇ、自発的な行動なんだから、誰に意見されることもねぇ、好きにやらせてもらうぜってのは、んなこたぁわかってる」
「で、では……」
「問題は、彼らが有機的に機能してねぇことだ。あるいは、全体を俯瞰して見てねぇことだ。偏りが大き過ぎる」
「よ、よくわからんが……?」
「たとえば援助の対象に偏りがある。語る内容に偏りがある。全体像が見えてねぇから、てんでバラバラなことをやってる。全体が見えてねぇから、自分たちの活動がどこに位置づけられるのかもわかってねぇ。それが全体に及ぼす影響もわかってねぇ。光が強くなれば影も濃くなり、そこが見えなくなることもわかってねぇ」
「なんとなくわかるような……。それで、どうすればよいんじゃ?」
「リーダーが必要だ」
「リ、リーダーじゃとッ!? 行政はともあれ、自発性が頼みのボランティアに、リ、リーダーッ!?」
「慌てんなよ、じいさん。指図するリーダーじゃねぇ。ましてやボランティアは、そんなもんにゃ誰もついてきゃしねぇ。必要なのは全体を見渡し、バラバラなボランティアの活動を有機的に結びつけるリーダーだ。誰の活動が全体のどの役割を果たしているのか、的確にフィードバックできるリーダーだ。手薄なところへ人材を投入できるリーダーだ。考え方のちがうそれぞれのボランティアに共感することのできるリーダーだ。バラバラに活動しているボランティアを、拘束せずにひとつの方向へと向かわせることのできるリーダーだ。つまり……」
「つ、つまり?」
「ビジョンを示してボランティア全体を目標へとモチベートできるリーダーが必要なんだ」
「な、なんとッ!」
「それでホームレス問題は大きく動く」
「じゃ、じゃが、そんな人材がいるのかの?」
「いねぇだろうな」
「なんじゃいそれは」
「だが、リーダーシップは学習で身につく。たとえば動機や考え方もまったくちがうボランティアに共感し、『あなたの気持ちはよくわかる』といって的確なフィードバックを与え、目標へとモチベートするのは、学習することができる」
「ふ~む……」
「みんなが共感できるビジョンを示して率先行動するリーダーシップを発揮する人材がいねぇ。それが関係者の抱えている最大の問題だ」

「ほかにあるかな?」
「……そうさな、書くことで気が楽になったということはある。ネットごときにゃ元々たいした期待はねぇ。しかし、ことばは力だ。それもまた事実だ。結局のところ、俺は書くことで気持ちが楽になった。非常に辛かったが、けれどプラスとマイナス、足して引いてみりゃ……必ずしもマイナスばかりが残ったともいえねぇ。プラスだった、ともいい切れねぇが……。まぁ多少の期待はあったのかも知れねぇ」
「期待があった、と?」
「わからねぇな。だが失望がある以上、期待はあったんだろうな」
「失望したと?」
「一部の……そう、一部の関係者たちには、やはり失望したといわざるをえんだろうなぁ。ちょいときつい指摘をされると当事者の話を聞きにこなくなっちまう関係者なんて、俺にゃ考えられなかったからなぁ。俺のネタを持っていって自分のものにして善人ぶってるドロボーのような関係者もいたしな。それで挨拶もねぇのよ。『筋の通らない善人』。ありゃひでぇ」
「善意のボランティアになにかを期待するのはおかしい、という話もあるが……」
「いいたいことはよくわかる。だが、やはりその考えはまちがってる。なにかをしてる人になにかを期待するのは、むしろ当然だ。それに『すばらしい。期待してますよ』といわれるのと『なにやってんのか知らないけど、別に期待はしてませんから』といわれるのと、じいさんだったらどっちがいい?」
「そりゃ期待されたほうがやる気が出るわい」
「だろう? プレッシャーにならない適度な期待は意欲を促すんだ。こいつを心理学ではピグマリオン効果と……」
「心理学の話はやめなさい」
「……」

「なんかよいことはなかったかのう?」
「That’s so long ago, I don’t remember.」
「なんじゃそれは?」
「……じいさん、『カサブランカ』も観たことねぇのか?」
「わしゃ数十億年も生きとるからな。世間にゃほとんど興味がなくなったわい」
「数十億年? じいさん、いつの生まれだい?」
「『そんなむかしのことは覚えていない』」
「ちぇっ。ちゃんとセリフを知ってやがる。嫌味なじいさんだ」

「なんだか今年でこのブログは終わりだという噂じゃが……?」
「噂だろう? 根拠はねぇ」
「しかし、すでに『あとがき』もあるぞ?」
「ありゃ、いちばん最初に『あとがき』があったらおもしろかろうと思ってそうしただけだ。だから、最初は単に『ホームレスの河』だったじゃねぇか」
「……そうじゃったな。しかし、突如として更新もなくなり、そう見えてもしかたがないが?」
「そう見るか見ねぇかは見方次第だ。ひと月更新がなかったぐれぇでじたばたすんな。まぁ終わったほうがうれしい方々もいるだろうがな」
「それじゃ、まだつづくんかのう?」
「I never make plans that far ahead.」
「またか。今度はなんじゃ?」
「じいさん、来年はどんな年になると思う?」
「『そんな先のことはわからない』」
「ちっ。つくづく嫌味なじいさんだぜ」
「まぁ、せいぜいわしに祈ることじゃ。さすればおぬしの願い、聞かんでもないぞ? ふぉっふぉっふぉッ!」
「まったく嫌な神様だよ、あンタは」
「GOD DOES BLESS.」
「なに?」
「わしは祝福する」
「とっととくたばんな」

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