書く者と書かざる者

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某月某日

ことばは虚しい。いくら叫んでも、いや叫べば叫ぶほどに、ことばはその力を失って空を切り雲散霧消してしまう。届くべきところへと届かない。届くべきところとは、すなわちあなたのその心だった。

ことばを使う者がその力を疑ったらお終いである。だからわたしはすでに終わっている。

かつて阪神大震災で被災したアマチュアの物書きが、パソコン通信を通じてその模様を伝えていたことがあった。彼はその悲惨な光景を眼の前にし、また自分で体験しながら、みずからが支えとしていたことばの無力さを訴えつづけていた。だが、それでも彼は書くことをやめなかった。あれはいったいなんだったのだろうか。

届かぬことばを書き連ねつづける、そのことのなんと愚かで虚しく馬鹿馬鹿しいことか。

先日なにかの新聞で歌舞伎か狂言の重鎮がいった。シベリア抑留時代のことはいくら話しても理解されないので話さないのだと。沈黙もまたなにがしかを語る。

だが、書く者は書かざるを得ない。なにをおいても書かざるを得ない衝動を持つ者、それが「書く者」なのである。先のアマチュア物書きも結局は書く者だったのだ。わたしは果たして書く者だろうか? 自身を問い詰めてみる。

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