続・自己評価の心理学

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自己評価の作られ方

さて、以前に触れた自己評価について、再び考える。

自己評価とは、自分が自分自身をどのように評価しているかということである。ここに本人の客観性はない。あくまでもその人物の主観としてである。この自己評価が低い場合、それが適度であれば慎重さや謙虚さとなって好ましいものとなることもあるが、ゆき過ぎると不安感や自信のなさ、劣等感、他人の眼が気になる自意識過剰、あるいは自己卑下などの形を取って、社会的な不適応を引き起こす。

こうした自己評価はどのように形づくられるのだろうか。

家族療法家のサティアは、低い自己評価の形成要因として父母との関係を挙げている。両親とのコミュニケーションに問題がある場合、自己評価に欠陥が生じるという。

この点について、性格形成分析の根本橘夫は、

なぜ、自分はこんな性格なのか?―性格形成分析入門
根本 橘夫
PHPエディターズグループ 2002-10

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の中で、理解な親、鈍感な親、神経質な親、子供を馬鹿にする親、からかう親、条件付きの受容をする親などの存在を指摘し、適切な自己評価には親の無条件の受容が必須だとする。

「育てられる者」から「育てる者」へ―関係発達の視点から
鯨岡 峻
日本放送出版協会 2002-03

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の中で関係発達論の鯨岡峻は、

自信たっぷりの子供は生まれつき自信たっぷりなのではなく、養育者がその子をしっかりと受け止め、くりかえし認めてきた結果である

という。

「人は自分を見る相手の瞳の中に賞賛の色合いを見出せたとき、自己愛感情が満たされて、自分の内部に自信とエネルギーがたかまってくる」
といって自己評価のたかまりを述べたのは、自己心理学者のコフートである。

アメリカの精神科医であるツワルスキーは、

23のマンガによる心理カウンセリング―失われた自分を求めて
エイブラハム J. ツワルスキー きたやま おさむ
講談社 2002-07

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で、成功しようが失敗しようが変わらず親は愛してくれると子供が感じることが、自己評価を高めることになるというが、これは無条件の受容とおなじ意味と考えてよい。

これらの指摘とともに、発達心理学によっても、親が子の性格に与える影響の大きさは、「三つ子の魂百まで」という俗説はいささか大げさな表現だとしても、遺伝的要素を含めてきわめて大きいことが明らかにされている。幼児期から青年期に至るまでの幅広い性格形成期間における養育者の影響は、絶大なものがあるといってよいだろう。

底の抜けたバケツ

無条件の受容については以前に触れたので詳しくは書かないが、要するに能力のあるなしに関係なく今ここに生きてあることへの賞賛で、それが人間が生きてゆくための根源的な基盤を作り出す。精神分析家であったウィニコットのいう、
「反応によってではなしに存在によって人生を出発することができる」
とは、こうした無条件の受容を指すものと思われる。あるいはまた、鯨岡のいう、
「自分がこの世界を生きる主人公であり、自分は周りから認められていて、それゆえ自分に自信と尊厳をもって生きてゆくことができるという感覚」
を持つことができるようになる要でもある。

人生にはさまざまな挫折がつきものだが、こうした自己評価の基盤がしっかりとしている人間は、自分の能力の至らなさに落ち込むことはあっても、自分の存在価値そのものを疑ったりはしない。
「能力があろうとなかろうと、自分はこの世に存在している価値がある」
という確信が心の支えとなって、常に前向きの姿勢を生み出す。したがって、立ち直りも早い。

だが、無条件の受容が不足していた者は、こうした拠って立つ基盤が脆弱なために、落ち込むとなかなか立ち直れない。下がった自己評価を上げるためには有能さを示して賞賛を得るほかはなく、能力を示しつづけることでしか自己の存在に意義を見出せなくなる。能力があってもなくても自分は存在していてよいという感覚がないために、能力のなさが自分の存在価値のなさへと直結してしまうのである。

しかし、あたりまえのことだけれども、他者より優れていることの証明など、そうそうできるものではない。どのような人間であれ、成功より失敗のほうがはるかに多いのが現実だ。したがって、自己評価は果てしなく下がりつづけることになる。わたしはこれを底の抜けたバケツと呼んでいる。無条件の受容によって底をふさがなければ、条件付きの賞賛がいくらあったところで自己評価のたかまりは一時的なものに終わってしまう。

ツワルスキーは、
「自分は愛されていると知ることが子供には必要で、その愛は無条件でなければならない」
と明言する。

ところで、わたしが自己評価という切り口に固執するのは、いうまでもなく、この概念がホームレスの心的な問題に直結していると考えるからである。

以前、わたしは「ホームレスは自己評価が低い」と書いた。だが、その後、実は必ずしもそうではないことがわかった。似たような状況にある者たちが集まったコミュニティでは、逆に自己評価は高くなるというのである。スポーツの下手な子は、上手い連中に混ざると自己評価が下がってしまい楽しくないが、下手な子どうしでやっているぶんには自己評価が上がり、楽しくスポーツができるというわけなのだ。これはホームレスの作るコミュニティにも、当然に当てはまることであろう。

また、失業という問題も、自己評価に大きく関係している。フランスでの話だが、失業者に対して再就職相談員の果たすべき重要な作業には、失業者に仕事への自信を回復してもらうということがあるらしい。これは、失業者の自己評価が非常に下がっているためである。仕事に自信をなくしたたいへん不安な状態にあるわけで、そこでまず自信を回復してもらおうというわけなのだ。

失業を経験した人はご存知だろうが、一般に、失業直後は外出を控えるようになる。恥ずかしい、みっともない、情けない、申しわけがない、といった感情に支配されるからだ。ご近所の人と顔を合わせたらどういえばいいのか、悩む人も多い。これがゆき過ぎて家族にさえいい出せず、出勤時間に家を出て公園で暇をつぶすなどという人もいる。このように、ホームレスを含んだ失業者対策は、単に仕事を斡旋すればよいというものではないのだが、さて、日本の場合はどうなのか。

と、このようなことを、これからもこの項で考えてゆきたい。

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