自己評価の心理学

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能力の評価と存在の価値

さて、人に認められたいというのは自己承認欲求ともいわれ、人間の基本的な欲求である。そこで大事な役割を果たすのが自己評価だ。医者や研究者によって、自己価値感情、自己肯定感、自尊感情など呼び方はさまざまだが、要は自分自身をどう思っているかということである。

自己評価には二種類ある。ひとつは能力の評価。いい換えるならば生きてゆけることの能力、すなわち自信である。これは行為の結果で作られる。結果に満足なら自己評価は高まる。他者からの働きかけで考えるのなら、ほめられれば自己評価は高まるし、けなされれば低くなるわけだ。能力の有無による評価である。基準は他者との比較、つまり相対評価ということだ。社会的評価のほとんどは、この能力の評価だ。精神分析学の兄弟分の交流分析では、他者の反応については条件付きの肯定的ストロークなどと呼んでいる。ストロークというのは称賛とか刺激といったような意味である。
「この難問を解決するとは、さすが田中さんだ」
「鈴木さんは優しいから好きよ」
などというのがこの例だ。反対の否定的ストロークもある。

もうひとつは存在の価値とでもいうべきものだ。いい換えれば生きることへの保証、つまり安心感である。これは能力の有無には関係がない。今生きてここに在ること、存在そのものに対する評価である。交流分析では無条件の肯定的ストロークという。
「迷惑かけようがかけまいが、そんなことはどうだっていいんだよ。高橋さんはわたしにとって、とても大切なんだから」
「どこの誰がなんといっても、あたしはずっと佐藤さんの味方よ」
などというのがこの例だ。これにも否定的ストロークがあるが割愛する。これには能力の条件はない。今、ここに生きて在ることだけが条件だ。この自己評価がしっかりしている人間は、落ち込むことはあっても自分の存在そのものを疑ったりはしない。自分は存在する価値のある人間だとわかっているからだ。

これらふたつの自己評価には上下関係があるが、基盤となるのが存在の価値で、その上に能力の評価が積み上がっていると考えていいだろう。

ホームレスの自己評価

ホームレスは一般に自己評価が低いと見てよい。仕事がない時点で社会から能力がないと評価されたわけだから当然だ。自己評価が低ければ自信というものがない。自信がなければやる気など出るはずもない。また、路上に堕ちたことで自己評価がさらに低くなるという悪循環も生じる。

だが、積極的に求職中のケースは、「職さえあればまだまだできる」と考えていることの証明だから、能力の評価は必ずしも最低ではない。ましてや自分の存在そのものの価値は疑っていないので存在の価値はしっかりしているはずだから、この段階なら仕事しだいでなんとか社会に復帰させることもできるだろう。

問題は存在の価値が侵食されている場合である。こうしたタイプは、すでに自分の存在に価値を感じていない。無価値感に支配されている。自分が意味ある存在だとは思っていない。人生などどうでもよくなってしまっている。そんな人間を小突くようにして強引に社会へ復帰させようとするのは、鞭打って100メートルを10秒で走らせるようなものだ。みずから「自分の存在には価値がある」と思っていなかったら、いつまで長つづきするものではない。

人はどんなときに充実し、どんなときに自信を持ち、どんなときに心の支えを実感するのか。失くしてしまったこころの支えを取り戻す、あるいは新たに持ってもらう作業に付き合うのだとしたら、ボランティアというのはまったく難儀な仕事である。発達心理学では、こうしたことの基盤は主に幼少時の養育者の態度によって形づくられるというから、幼いわが子にやさしく向き合うようなこころ持ちが必要なのかも知れないが、それをアカの他人で、しかも大のおとな相手にやらなければならないのなら、なるほど、なまなかなことでできるものではない。

(2004-02-18 他掲示板投稿分を改稿)

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